職業


25個



1和料理屋の店主「まぁまぁ、遠い所から…よぉーくおいでなさった。

言い付け通り、座敷の方、ちゃぁーんと空けておきましたよ。

ほんま、アンさんはしょっちゅうおいで下さって、ワテも嬉しいんどす。

あ、玄関先で立ち話も野暮どすな。どうぞ。御上がり下さいな。」



2祓いの館「あら、お客様とは今時珍しい。祓(はら)いの館(やかた)へようこそおいでなさいました。

…おや?あんさん、何やら不吉(ふきつ)な空気をお持ちみたいどすな。

フフッ。そちらは祟(たた)りか妖怪(あやかし)か…。はたまた狐が憑(つ)いたのか……。

まぁまぁ、慌(あわ)てんでもええ。ここに掛(か)けて。

お水でもお飲みなさい。

……それで?"そちらさん"に、あんさんは何されたんで?」



3鍵屋「あ、いらっしゃい!人なんて、久々に来たよ。

それで?どんな鍵が欲しいんだい?無難なシリンダー錠?歴史あるウォード錠なんかも良いけど…やっぱり君の生きる時代の人間には向いていないか。勿論生体認証錠や南京錠なんてのもあるけど…。どんな錠にしようか?」



4小説家「真っ白な原稿用紙…床に散らばった書きかけの原稿。

"期待"それには答えなくちゃいけないのか?

自分の作品なのに、自分は書いちゃいけないのか?

僕の名前なのに、それはもうありのままの僕では名乗れない…僕じゃない誰かの名前になっていた。

……いっそのこと、僕は自分とただ大切な人のみの知る小説を書く名も無き小説書きで、良かったのではないかと…そう思ってしまう。」


5画家「はぁ?タイトル?

……ノータイトル。要らないのよ。無駄に着飾った表面なんか。

どんなに表面を繕っても、中身がなきゃ、それは脱け殻でしょうが。」



6   SP(お前はオレのお姫様なんだから。)「当たり前じゃん。オレがお前を守ってやるよ。

お前が何と言おうが、お前はオレのお姫様なんだから。

だから、うだうだ言ってないでオレについて来い。

いくらお前だろうが、オレの邪魔をする事は許さない。」



7スパイ「なんでこんなことをするか??決まってるじゃない。お金のためよ。

ッフフ…よろしいですか?お嬢様。

私の仕事はスパイ。

貴女の様な世間知らずの小娘の付き人でも、召し使いでもない。

良い?私はね、貴女の一族を地のドン底に陥れる為に貴女に近づいたのよ。」



8研究者「あぁ、今晩わ。

また…会いたく無い所で会ってしまったね。

なぁに…此処へはちょっと話をしに来ただけさ。

私の研究を欲しいと言っている悪党がいる様でね。

……ん?あぁ…お前達か。

私を無理にこんな場所へ連れてきたのは。

私は、逃げも隠れもしない。それにこうしてちゃーんと話も出来る。

招待状でも出して客間でお茶でも出してくれたなら、喜んで何処へでも参ったものを。

…あぁ。そうか。どうやらそこまで愛想のある相手でも無さそうだ。

…では、敢えて聞こう。どうせ私のしている研究が目的なのだろう。

何せ、私にはもうこの研究しか残されていないからね。

…その研究をどう扱おうと言うのだね?

…………ん…?…まさかっ……。

……ククク…これは驚いた。

私の愛しい娘…ティナを…いや、正しくはティナの外身を…貴様らごときが作り上げるとは…。

だが、どうやら貴様らの作ったコレは、未完成の様だな。

姿形は確かに我が娘そのものだが、心は…中身は全くティナのそれとは違う。

…まぁ、貴様らの様な奴らのする真似事に、ティナの全てを作れる訳もないか。

それで、私の手が欲しくなった。

と、ザッとそういう訳か?

…なんだ。何が可笑しい?

っ……グアアアア!!

な、何をする!!

…!?それは…アレナ…!?貴様ら…墓場より死者の身体を掘り返すとは……なんたる冒涜…!!

っぐ…ああ、ああああ!!

私のッ…私の血を…グァ…どうするつもりだ…!!

ハァ…ハァ…。そうか…私と…アレナの遺伝子を、そこにいる作り物のお人形に注ごうと言うのか……。

……悪党の考えそうな事だッ…。

っう……。

あぁ……私の事をパパなどと呼ぶな…。

私はお前の父では無い…。

お前は、私の愛しい娘…ティナではない!!!

消えろ!!この紛い物が!!我が娘の血を汚すな!!

………ッククク…。すまないね。いくら精巧(せいこう)な偽物が出来ようが…私はきっと満足がいかないのだよ。

そして、貴様らの様な輩(やから)に、私の編(あ)み出した技術を渡そうとも思わない。

殺したければ、殺すが良い。

あの世にいけば、私がずっと求めていた…我が愛しい娘…ティナにも、また会えるだろう。

………ハァ…そういう訳にも…いかねぇか!!」



9ギャンブラー「ッハハハハ!!馬鹿だなぁ。

人間なんて所詮、自分の事しか考えて無いのに。

他人を庇(かば)うなんてさぁ?

他人なんか、放っておけば良いのさ。

そうじゃなきゃ、今度はアンタが標的になるだけ。

アンタが他人を助けた所で、他人はアンタを利用するだけなんだよ。

当然の事だよ。これはギャンブルなんだからさ。

他人を蹴落として自分が得をするためのゲーム。他人を助けてどうするわけ?」


----✂︎----2019年----✂︎----



10花屋さん:嫉妬)「あら。君かぁ。

どう?あれから、ちゃーんと

花を大切にしてる?

ふーん。そう。なら宜しい。

これからも花を大切にし続ける様に。

分かったわね?

ん??今日もお花を?

何にする?好きな人に渡す花…?

ふーん。そう。赤いヒヤシンスの花なんてどうかしら。

…何故って?

そんな事はどうでも良いじゃない?

上手くいくといいわね。その好きな人と。」



11賞金稼ぎ「あーら。良いじゃない。

貴方、私が誰だか知ってる?

私はねぇ。能力者ハンター。

世界に在する様々な能力者を狩り…金を貪る賞金稼ぎ。

貴方は…時を操る能力者。違う?

フフ…フフフフ…。図星の様ね。

良いわ。時を操る能力は…能力の中でもトップクラスの大目玉。

何人もの賞金稼ぎが狩りに失敗したと聞くわ。

その大物を…この私が狩ってあげる。

能力者さん?私は手強いわよ?

覚悟してね。」



12シスター「あら?神を信じたのは○○さん…貴方自身の意志のはずでしょう?

それを、お前のせいだなんて…。

それは酷い話ですわ?

私は貴方に信じるべき道の選択肢を提供したまで。貴方自身が何を信じるのか。その選択権は間違い無く貴方にあったのですから。責任は貴方自身にあります。

責任逃れは愚か者のする事です。

私は、貴方にそうはなって欲しくない。

貴方には紳士でいていただきたいのです。

ねぇ?○○さん。分かるでしょう?愚か者には必ず、神からの天罰がくだるのです。

貴方のお友達が…そうであった様にね。」



13バイオリニスト「誰よりも可憐に…激しく! 

そうして今まで弦を弾いてきた……!

私はこの子を咲かせてあげなきゃいけないのっ…!

誰が奏でる音色にも負ける訳にはいかないの!!

……たとえこの指が砕け散ろうが、そんな事はどうだっていい。

ただこの子が…私の手の中で歌ってくれるこの一瞬一瞬が…狂おしい程に幸せで…かけがえのない時間なの。

誰にも渡さない。この幸せは私だけのモノだから…!!」



14漫画家「あれも違う…これも違う…どれも違ぁあう!!ハァハァハァ……はぁ…。何で?どうしてこうも上手くいかないのぉ…!!

今日は○月△日…締め切りは明日だっていうのに……。

(プルルルルルル(電話の音))ハッ………。電話…電話だぁあ…!!

編集部さんかな…どうなのかな…!アガッ……編集部さんだぁあ……。

(ピッ)は…はぃ…○○です。そ、それがまだ……。はひぃッす、すみません…!!今すぐ描きます!!!

………はぁあ…もう!!こうなればあの手だ!あの手を使うしかなぁあい!□□(アドリブ)!!」



15バイト先の先輩「んー?あぁ。君が新入りのコ?なかなか可愛いじゃん。

とりあえず、制服はメイド服でよろしく♪

アハハ!面食らっちゃって可愛いなぁ(笑)

冗談冗談★俺、先輩。よろしくね。○○ちゃん。」



16傭兵「どんなに傷ついた所で…何度だって助けに駆けつけてやるさ。

それが俺のやるべき事だからな。

勘違いすんな?俺は傭兵だ。

アンタが貧乏人になった時。その時は俺がアンタを殺しにきてやるよぉ。

っはは!そんな怒んなって!

安心しな、金ってのは絆なんかよりも信用出来る。絶対の力なんだからな。」



17画家「誰かの為にって、そればかり考えていた。

僕の作品を喜んでくれる人達の為に…皆の喜んでくれる作品を作ろうと思ってた。

でもさ、その内に自分が自分の作品を描いてるんじゃなくて、他人の作品をコピーしてるみたいな感覚になってさ。

…あはは。君に絵を破られた時は、ビックリしたけど…それでも自分が製作を楽しめて無いって気付けた。

ねぇ?僕に、君のことを描かせて欲しい。どんな君でも良い。自然な君を描きたい。

もし、良かったらで良い。描かせてください。」



18踊り子「べつに良いじゃない。

"誰かの為に"踊れるなんて、私は羨ましいわ。

私は、未だに自分の価値を見出だす為に踊ってる。

貴女の様に他人の事を考えながら踊る事なんて出来ないもの。

べつに、褒めて無いわ。少しは認めてあげても良いかなって思っただけ。

次はステージで会いましょ。

良い?遊びならどうだって良いけど、役を取れる取れないは実力で決まる。

私!貴女には負けないわよ。」



19コピー屋「質やクオリティーを求めるのなら、最初から私では無く本物の職人を雇う事を薦(すす)める。

私は単なるコピー屋…コピーは所詮、本物の紛(まが)い物でしか無いんだ。

だが、此処に来る客はどうもコピーを過信しすぎている様でな…。アンタもそうだ。"これは違う"?そんな事は当たり前だ。

此処にあるのは偽物ばかり。

此処に来た時点でアンタのが本物を手にする事は無い。」



20殺し屋「私が殺し屋には見えない??

フッ…そりゃーそうでしょ。

殺し屋が"はーい。私殺し屋ですよー"って、そんなバレバレな殺し屋はいないわよ。

ああ、私がこんなだからって、油断しない方が良いわよ??

依頼は絶対なの。貴方を殺せって依頼がくれば、貴方を間違いなく殺す。他もそれにしかり。それが殺し屋。

ん?ナニ?怖くなっちゃった??

安心して?今の私のご主人様は…貴方。今はただ貴方の口の発するままに…ターゲットを殺すだけよ。」


-----✂︎----2020----✂︎-----



21殺し屋「オイオイ。ちょっと待ってくれ。

話せば分かる。

何をそんなにムキになっているんだ?

俺はただ、己の職務を全うしたまで。

お前にとやかく言われる筋合いは…無いと思うのだが。

その刃物を少し俺から離してはくれないかな?

すっかり午後のティータイムだというのに、これではお茶も飲めんよ。少し座って、君も一口 啜(すす)って見ると良い。

僕がブレンドしたハーブティーさ。そこらのお茶には劣(おと)らない 腕に寄りをかけた一杯だ。

…おっと。お茶はキチンと椅子に座って飲むのがお約束だ。

そんな立ったまま啜られようモノなら、そのコも悲しむよ。

分かれば良い。…さて、何の話だったか?

あぁ、そうそう。僕の職務とはいえ、君の妹ちゃんを殺(あや)めてしまったあの事か。

あれは僕としても実に痛ましい出来事だったよ。

なんせ、兄の目前でたった一人の家族である妹ちゃんを殺さなければならないのだからね。

僕に殺された妹ちゃんにも、君にもきっと罪は無い。

あるのは僕に依頼した依頼主ただ一人。そう僕は思っている。

いかなる理由にしろ、人を心から殺めてしまいたいと願い、それを実行してしまう事は罪に値する。

まぁ、僕はそんな罪に荷担してしまった訳だが…なんせ僕は便利屋。頼まれれば断れない性分なのだよ。

悪いがクレームもサービスの返品も受け付けていない。

君が僕を殺そうとするのなら、僕は正当防衛を理由に君を殺らなければならない。

君に僕の命を絶つ事は出来んよ。

君にはそれだけの器量(きりょう)が無い。」



22成仏執行人「別に、成仏なんてしなくても良いんです。

寧ろ、思い残す事があるのなら、とことん追求し、貴方なりの答えを探す。それで良いのでは無いでしょうか?

ご自身の納得がいくまで、今の霊(たましい)のままでいれば良いんです。

そして納得がいくその時がきたら、またコチラにいらしてください。

私は、いつでも貴方を成仏させて差し上げます。

答えが見つかってからでも、成仏は遅くないと、私は思いますがね?」



23殺し屋「んはは、ははははは!!

いや?可笑しくてね。

君はそんな震える手で、慣れない銃なんて持ってきて俺を殺すと…そう言っているのか。

覚悟が出来ていないんじゃないか?

違う。俺を殺す覚悟ではなくて…人の命を途中で強制的に取り上げるその行為を…一生背負っていく覚悟は出来ているのかと聞いているんだ。

俺はいつだって覚悟を決めるんだ。今からこの手で奪うその人間の一生を…背負っていく覚悟をね。

震えたって構わない。下手くそでも構わない。だがなぁ…背負えない奴に殺しは向かねぇぞ?

あー。分かった分かった。じゃあ殺してみな。俺は逃げも隠れもしねぇ。

人を最初に殺した時から殺される覚悟もしてきたからな。

さぁ、撃て。あとはその引き金を引くだけだ。ほら早く!!!

……はぁ。やはりお前には無理みてぇだな。

分かった。暫くの間、俺を見ていると良い。

そして覚悟が出来たなら殺すと良い。そんな顔しなくても安心しろ。逃げも隠れもしねぇ さっきそう言ったろ?」



24本屋「まったく君は…本屋に働きに来た割りには、本当に本の扱いが雑なんだから呆れてしまいます。

まぁ、最初の頃の様に背表紙の向きがバラバラだったり、上下巻が逆に入っていたりってことは無くなったから"よくできました"と褒めてあげるべきかしら?

どちらにせよ、君も正式に私の部下として働き始めたのだから、何百…何十円の本の埃(ほこり)だって、きちんと落とせる様にならなくちゃね?

当然ここには、何十…何百万の本だってあるわけだから、本の価値も ろくに分からない君には此処にある全ての本に24時間365日完璧なメンテナンスを施(ほどこ)す義務があるのだけれど。

…あら。今日は随分(ずいぶん)素直なのね。そうそう。その調子。

"大変よくできました。"」



25庭師(主を待つ)「ううん?辛くなんか無いですよ?

此処で庭木を整える事は、ちゃんと此処に貴方の居場所はありますよ…って、とある人に知らせたくて…いつでも此処に帰ってきて欲しくて…結局は自己満足なのかもしれないけど、それでも此処で私が待っていたい。それだけで私は幸せです。」



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