胎児


6個


1「鼓動の音が聞こえる。…今、僕を包むのは…いわゆる"ママ"っていう存在で…。

僕の"ママ"は、いつも決まって僕に"恐くないよ"と囁(ささや)く。

…"恐くないから、早く出て来て、貴方の元気な泣き声を聞かせてね。"それは、僕が聞いた"ママ"の最後の声だった。

……気づけば目の前は真っ白で眩(まぶ)しかった。

"ママ"の温もりは消え、むしろ少し涼しかった。

……それからは"ママ"の囁きは聞こえない。僕を撫(な)でる手も感じない。…その時、僕は"ママ"は死んだのだと察した。

ねぇ、"ママ"?僕の"ママ"。僕のお顔、見たかった?僕の泣く声聞きたかった?

"ママ"…"ママ"僕を愛していてくれてありがとう。

来世では、次こそは、"ママ"の子供として、産まれたいな。」



2「"早く産まれてきてね"女の人の声。

"なんか、トクトク…音が聴こえる!"男の人の声。

壁の外から聴こえるのはいつも…そう。僕を"待ってるよ"っていう期待と、

僕の事が"好きだよ"っていう、愛する言葉。

"まだかな。まだかな。"…"もう少し、もう少しで此処から顔を出すからね"」



3「お母さんとお父さんの笑い声が聞こえる。

ああ…。僕はきっと暖かい家族の元に産まれるんだね。

僕のお腹に繋がってるお紐には、お母さんがくれた僕の栄養が沢山。

時々、僕の動く音を、お父さんの耳が聴きにくるよ。

…お母さん、お父さん…ありがと。

僕、もうすぐ会いにいくからね。」



4奇形「…お母さん、お父さん。僕みたいな子が出来ちゃってごめんね。

僕にはお目めがありません。

何にも見えない。まっくらです。

僕みたいな子は、きけい(奇形)っていうんだよね。

きけいを持っていたら、きっとお母さんもお父さんも馬鹿にされちゃう。苦労させちゃう。

…そんなの、僕は嫌だな。

お母さんにも、お父さんにも僕、笑っていて欲しい。

だから、お母さん、お父さん。僕を、殺しても良いよ。」



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5「鼓動が聞こえる。

それと優しい穏やかな声。

○○(自分の名前)、○○って。

呼ぶような声。

"早く産まれてきてね"…か。

ふふ、なんだかくすぐったいなぁ…。

大好きな声。僕の耳の奥をくすぐる様な笑い声。

僕はどんな人の元にどんな風に産まれるのかな。」



6「激しく言い争う様な声。

しくしく啜(すす)り泣く声。

優しく僕を撫でながら囁(ささや)く声。

お母さん。お母さん。泣かないで。

僕はお母さんをきっと笑顔にするからね。

"僕が産まれて幸せだった"ってきっとそう思わせるから。

だからお母さん。待っていて。」


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